昨日のTackeyさんと野田ユカさん、IZUMIさんとのライブの余韻を残しつつ、朝早く目覚めてみると、強風がベランダの欄干に打ち付けてビュービューと唸っている。何だかイヤ〜な予感。そう、今日は年に一度は必ず敢行している「自転車100kmラン」の日なのだ。自転車にとって、強風は大敵。場合よっては全く進まないことすらあるのだ。家の前の大通りのトロピカルな街路樹が強風になびき、リビングから見える海面が風で波立っているのが見える。決行しようかどうしようかとウダウダしているうちに、9時を回ってしまった。えーいままよ!来週は雨かもしれないから強行だ!
自転車仲間の相棒が強風にビビって辞退したので、独りで走ることにする。なーに、単独走ってのもオツなもんさ。早速、愛車cannondale(MTB)のタイヤをスリックに履き替え、ボトルに水を満タンにして走り出す。目的地は「自宅」である。つまり、ここ幕張から往復100kmの行って来いをするだけなのだ。自宅の窓から見える京葉工業地帯。昼は無数の煙突からもうもうと煙が上がり、夜は明りが灯るとまるでブレードランナーの一場面のようなサイバーな雰囲気になる。その工業地帯を眺めながら、木更津に向かうことにした。今は事情があってロードバイクを所有していないので、このMTB1台で全てをまかなっている。鈍重で着座位置も高いうえ、フラットバーハンドルを付けているので、とても長距離を走るのには向かないバイクだ。細いスリックタイヤを履かせ、リアスプロケットをハイギアードにしても、高速巡行は難しい。
家を出て南に進路をとると、予想通りもの凄い南からの向かい風(泣)。ひと駅分ぐらいヒイコラ来たところで、「やはり今日は止めて引き返そうか…」と弱気がもたげるも、何となく惰性で漕ぎ続ける。今日はオフロードのライディングテクや練習をするわけではなく、ひたすら距離を走るのが目的なので、アスファルトを淡々と走るのみ。しかし暑い!風があるものの、日差しは真夏に戻ったようだ。そういえば、天気予報で「最高気温は35度」とか言ってたっけ…早々に尋常でない発汗に襲われ、目に汗が入って痛くて仕方無い。しかもこの向かい風で、土ボコリが容赦なく目に入ってくる。房総半島を南に向かう国道357〜127号という幹線をヨロヨロと走っていると、猛スピードでスレスレを追い抜いていく車によろけながら、早くも苦行の様相を呈してきた。
緑の高原や美しいビーチももちろん好きだ。しかし、なぜだかガキの頃から工業地帯や造成地、工業港や誰も来ない林道といった、「ホッとできない場所」に惹かれてしまう。焦燥感だったり、妙に居心地が悪かったり、早く帰らなければいけない気持ちになるような、そんな物悲しさすら漂う場所が大好きだ。しかも一人で行くのがサイコー。そんな場所に一人で向かうとき、そして着いて一人でたたずむとき、大切な家族や友人のことをじっくり考えたりしてしまう。しかし、それって単なる人恋しさかも(笑)。延々と続く工業地帯を右に見て、強烈な向かい風と格闘しながら漕ぎ続け、ボトルの水を頭からブッかけまくる。コンビニを見つけるたびに、ミネラルウォーターやスポーツドリンク、ゼリー飲料を買って摂取。ストイックな旅ではないので、お金はジャンジャン使う。とはいっても100円単位なのだけど。そうこうするうちに木更津港に到着。工業地帯をひたすら走破し、辿り着いたのは今や「寂れた街」の代名詞(?)でもある木更津の、さらに寂しい鉄サビ色の港である。そしてこここそが、「ホッとできない」楽園なのだ。そこから小櫃川に向かい、途中のコンビニで買ったサンドイッチと野菜ジュース、麦とホップでできた黄金色の聖水(俗称:ビール)でランチをとる。この組み合わせか、おにぎりとお茶とビールという組み合わせは、自転車ツーリング時には自分にとって最強の組み合わせ。どんなにヘバっていても、聖水を浴びるとパワーが復活するから不思議だ^^;
道中、暑さで調子が悪かったデジカメも復活したので、帰路は工業地帯に立ち寄って撮影しながら帰ることにする。帰りは追い風だから楽勝でしょうとクルッとUターンすると「なんで向かい風なんだよー!?」どうやら、今日は南西の風だったので、体感的には往復とも向かい風となってしまうらしい…トホホ。陽は高く昇り、それとともに気温もぐんぐん上昇。ボトルの水をジャブジャブかぶりながら、何だか修行僧のようにペダルを漕ぎ続ける。幹線国道の交通量は相変わらずで、しかも上り線はダンプやトラックが多いので危険極まりない。酷暑の中を大量の発汗とともに走っていると次第にモーローとしてきて、このまま何処までも走り続けられるんじゃないかという錯覚に陥る。こうしたサイクイスト・ハイ状態(ただの熱中症っつーウワサも)の中、土ボコリと排気ガス、工場のばい煙を浴びて走るのが快感だ^^;;;
帰路は左手に工業地帯を見ながらの旅だ。京葉工業地域は、カッコよく言えば自分にとってのロマンである。君津の巨大な新日鉄の工場も大迫力だし、袖ヶ浦の住友石油化学や市原の三井石油と丸善石油といった石油科学工場の高い煙突の先端からは、得体の知れない炎が立ち上る。千葉のJFEスチールや火力発電所は、自宅のベランダからよく見えるのでなじみ深い。こうした一大工業地帯は、関係者以外を全く寄せつけないような、要塞的な迫力があり足を踏み入れにくい。しかし、エキスパートであるオイラ(?)は、潜り込める場所を知っているので、自転車で立ち寄りながら幕張に向かう。途中、市原に住む友人のアジトに立ち寄ると、ちょうど居合わせたのでしばし休憩。奥さんがくれた冷たいお茶が美味い!
強風と強烈な日差しの中、「ビオトープ蘇我」に立ち寄ってみる。「ビオトープ」とは、一度失ってしまった自然の営みを復活させようとする試みなのだが、この蘇我のビオトープは工業地帯のまさしくド真ん中にあるので、周囲の風景との異様なミスマッチがそれはそれは素晴らしい。いつ来てもほとんど人の気配が無く、ただ広大な緑地の向こう側に巨大工場や工業港が見えるだけという、「ホッとしない場所」なのである。
蘇我まで来れば、あとは幕張までは早い。国道から1本入ると、昔の海辺の街の雰囲気を残した古い町並みが続くのも発見だ。途中で千葉港のポートタワーや誰も来ない千葉港の先端まで行ってみる。旅はいよいよ終盤だ。国道沿いのサイクリングロードに入り稲毛の航空記念モニュメント(稲毛は日本民間航空の発祥の地)に立ち寄りながら、花見川サイクリングロードに帰還するも、ここから海辺の我が家までの道のりが一番すごい向かい風!軽いギアに入れてもなかなか進まない。逆に、すれ違うサイクリストは追い風に背中を押されて猛スピードだ。サイクリングロードから海岸通りに出る最後の坂で、ハンガーノック(エネルギーを消費し切った状態)で、ちょうど足を使い果たしてしまった。強烈な風と残暑に苦しめられた100kmランも、こうして無事完走。ビッ、ビールっ!!
2007/9/17 Nacky |