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屋根の上に「営巣地」誘致を!
住宅難のコアジサシ

文:千葉県立幕張総合高校教諭 早川雅春先生


 コアジサシは黄色いくちばしに黒い帽子をかぶり、さながら白いツバメといった鳥である。蒼い空や海をバックに飛ぶ姿は美しく、初夏の風物詩となっている。以前は水辺に普通に見られる種であったが、近年その数が減り、日本版レッドデータブックでは希少種に指定されている。

失われゆく砂浜

 
コアジサシは北海道と東北の北部を除く全国に夏鳥として渡ってきて、5月中旬頃から繁殖をはじめる。営巣場所はもともと植物の生えていない川の中州の砂利地や砂浜であり、深さ1cmほど穴を掘っただけの簡単な巣を作る。1巣の産卵数は通常2〜3卵である。しかし、経済発展に伴い沿岸部が開発され、全国の自然海岸が減るにつれて、営巣地も減少している。
 
コアジサシにとって皮肉にも幸いだったのは、自然海岸が減るかわりに、造成地が提供し続けられたことだった。自然の営巣地を失ったコアジサシは、埋立ての造成地や浚渫土を積み上げた丘の上を営巣地に選んだ。現在国内の営巣地のほとんどが造成地で、自然地形での営巣地は九十九里浜(千葉県)や天竜川(静岡県)、酒匂川(神奈川県)、千曲川(長野県)の中洲など数えるほどしかない。
 造成地は危険防止のため一般的に立入禁止となっており、
コアジサシが比較的安心して営巣できる環境が多い。しかし、釣り人の進入やオフロードバイクの乗り入れなどにより卵がひかれてしまう被害も少なくない。また造成地では、造成されて2年目までは営巣が可能であるが、3年目になると裸地であった場所が草で覆われてしまうために、コアジサシの繁殖には適さなくなってしまう。
 戦後右肩上がりの経済成長に支えられて、日本各地で埋立てや造成工事が続けられてきたが、今後これまでのような大規模開発は見直されるケースが増えるであろう。そうすると新たな造成地は見込めず、コアジサシの営巣地も減少していくことが予想される。

「車」と棲み分けた

 
千葉市美浜区の通称「幕張メッセ」周辺では、常設の駐車場のほかに、東京モーターショーのような大きなイベントのときにだけ利用される仮設駐車場がいくつかある。ここでは7年前よりコアジサシが営巣している。東京モーターショーは秋に行なわれるため、5月から8月まではコアジサシ専用の繁殖地になっている。1つの土地をコアジサシと人が季節的に棲み分けている特殊な環境の場所といえる。
 こうした仮設駐車場では、1997年5月31日から8月2日までに599巣の巣と500つがい以上の成鳥を確認した。また、ここを含む千葉市沿岸部の営巣地全体では1000〜2000つがい程度が繁殖している。日本国内では1万つがいくらいが繁殖しているといわれるので、千葉市沿岸部では全国の1〜2割が繁殖していることになり、国内最大級の繁殖地といえる。
 仮設駐車場が営巣地として適しているのは、簡易舗装が施してあるため、草が生育しないことである。そのため、営巣に適した環境が長年にわたって維持されている。しかし、これらの仮設駐車場も将来、住宅地などにすることが計画されている。そこで仮設駐車場がなくなる前に、
コアジサシの恒久的な営巣地を確保することが急務となっている。

米国では40年も前から

 米国フロリダ州にはアメリカコアジサシが生息している。日本のコアジサシとは別種であるが、形態、生態ともによく似ており、別亜種とされる場合もある。
 フロリダでも、マイアミに代表されるように海岸部はレジャーに利用されている場所が目立ち、自然の海岸が手つかずに残っている場所は多くない。自然海岸で営巣できなかったり、繁殖に失敗した
アメリカコアジサシは、屋根の上で営巣していることが40年前より観察されている。
 フロリダでは鉄筋コンクリートの建物の場合、傾斜のない屋上にタールを流しその上から直径1cm程度の砂利を厚さ2〜3cmまくのが一般的な工法である。砂利がまかれた屋上の様子は、河原や造成地、仮設駐車場と変わらず、ここで
アメリカコアジサシは営巣している。
 こうした工法の建物は普及しており、フロリダの1都市パナマシティーだけでも300ヵ所ぐらいある。そのうち70ヵ所くらいが毎年、
アメリカコアジサシの営巣に利用されている。現在ではフロリダで営巣するアメリカコアジサシのうち、半数以上がこの工法造られた屋根の上で営巣している。
 屋根の上では卵や雛が
イヌやキツネに捕食される心配はないし、洪水によって卵が流されたり、水に浸かってしまうこともないため、繁殖成功率は地上の繁殖地よりも高い。
 
また、屋根の上は見晴らしがよく、カラスやカモメなど捕食者の接近を早く察知することができるので、営巣地外との間に緩衝区域がなくてもよい。結果として、地上の巣と比べて営巣密度が高く、狭い面積でも多数繁殖することが可能である。
 造成地が減少する中、土地が少なく地価の高い日本で、仮設駐車場のようなコアジサシの営巣専用の広い敷地を考えるのは難しい。そこでフロリダのような、屋上への営巣の誘致を検討してはどうだろうか。
 「幕張メッセ」の駐車場を2階建てにしても良いかもしれない。また、日本の沿岸部にたくさんある倉庫の屋上は何にも利用されていないので、ここを利用するのもいいだろう。屋上に砂利をまくだけであれば、コストもそれほどかからず、決して不可能な計画ではないと思われる。

チドリ類にも朗報?

 フロリダの屋上では、アメリカコアジサシのほかに、アメリカオオアジサシ、ベニアジサシ、クロハサミアジサシ、フタオビチドリなども営巣している。特にクロハサミアジサシは、高い頻度でアメリカコアジサシと同じ屋根で営巣している。
 日本ではシロチドリ、コチドリが
コアジサシのコロニー周辺で営巣している。日本でも屋上へのコアジサシの営巣誘致が成功すれば、これら同所的に営巣する鳥の保護にも役立つ可能性があり、非常に意義あるプロジェクトと考えられる。

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以上、平成12年7月16日(日) 幕張総合高校地域コミュニティの集い
ミニ講演  「幕張地区で繁殖するコアジサシ」より




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